【 日 付 】2023年2月5日(日)
【 山 域 】南越
【メンバー】山猫、家内、Nさん、Sさん、flatwellさん
【 天 候 】晴れ時々曇り
【 ルート 】樫尾谷林道除雪終了地点09:02〜11:55点標 八飯 74411:59=12:21P739(ランチタイム)12:53〜13:22点標 栃ノ木〜14:29音波山14:37=15:33点標 岩滝 690〜17:10出発地点
昨年の1月に山日和さんのrepで点標八飯のある尾根にも風力発電が計画されていることを知る。その後、栃ノ木峠から上谷山への縦走において、風況観測樹のあるピーク一帯のなだらかな稜線を目にすると、ブナの伐採が進行してしまう前に是非ともこの八飯から音波山へと続く稜線を辿ってみたいと思っていた。
昨秋に腰椎の横突起を骨折されたNさんも怪我からは既に十分に恢復されたようだ。Sさんもご都合が良いとのこと。最近、Nさんと一所に山に同行されているflatwellさんからも前日にご連絡が入り、久しぶりにご一緒させて頂くことになった。flatwellさんと前回、ご一緒したのはやはり風力発電が計画されている庄部谷山から芦谷山への稜線を訪れた山行以来だ。
朝は敦賀までは鉄道で行かせて頂くことにする。始発の新幹線「ひかり」から北陸本線に乗り継いて敦賀駅に向かう。伊吹山から金糞岳にかけての伊武山地の稜線はすっかり雲に覆われているが、北陸本線が木之本を過ぎると右手には霧氷を纏った横山岳が朝陽を浴びて白銀に輝いている。やがて車窓風景は濃厚な朝霧に包まれてゆく。
敦賀に到着すると青空が広がっている。敦賀駅には物々しい北陸新幹線の新しい駅が出来ていた。開業は来年らしい。前日は敦賀では雨だったようで、周辺の山々における先日の寒波の雪もかなり少なくなったようだ。
朝は敦賀の駅に集合する。天筒山の登山口でSさんと落ち合うとSさんの車一台でいざ現地へ向かう。山の上の方では霧氷がつくことを期待していたが、どうやら霧氷がつくには気温が高過ぎたようだ。木ノ芽トンネルに向かうとその上に聳える鉢伏山には霧氷どころか雪も少ないように見える。
それでも木の芽トンネルを抜けると嶺北側は途端に雪景色となり、孫谷川の周辺の樹々には着雪が見られる。この孫谷川は昨年の夏の記録的な集中豪雨で氾濫し、広野ダムの方に向かう橋は数ヶ月に渡り通行不能な状態になっていたそうだ。
八飯の集落での駐車地が心配であったが、樫尾谷へと入る林道は除雪されている。昨夜に降ったものと思われる薄雪の上に真新しいタイヤの痕が続いている。林道を600mほど入ったところで二俣に分かれる地点まで除雪は続いており、その手前に駐車地が設けられていた。一台の車が停められ、二人の釣り人が出発の用意をされていた。車をずらして下さったので横に停めさせて頂く。詰めれば3台は停めることが出来るだろう。
釣り人達は上流の左俣まで入られるとのこと。国土地理院の地図で林道の先に点線が記されているさらにその先の左俣のことらしい。先に出発してゆく彼らを見送りながらNさんが「物好き〜!」と一言。しかし、彼等も我々に対して同様のことを思っている可能性は十分にあるだろう。
谷に立ち込める朝靄が秘境の雰囲気を醸し出す。所々で川に糸を垂れている先ほどの釣り人達にはすぐに追いつく。林道には数日前のものと思われるワカンのトレースが続いている。
早速にも倒木が次々と現れる。林道は川の右岸に続いている筈であるが、すぐにも林道の跡形も見えなくなるのは既に崩壊してしまったからだろう。果たしてここも昨年の豪雨の影響だろうか。河原をへつって100mほど進むと、その先に再び林道とワカンのトレースが現れた。
林道は片斜面が心配ではあったが、片斜面は見られず、難なく出合に至る。ワカンのトレースは林道をさらに先に進んでいる。尾根に取り付くと最初はかなりの急登である。林道を少し進み標高点271のポイントから尾根に取り付いた方が良かったのかもしれない。気温が高くなったせいだろう、尾根の杉の樹からは融雪による水滴が雨のように滴り落ちる。
急登を登り切ると植林となり、間伐の跡が目立つ。植林はすぐに終わり、自然林の疎林が広がる。そのお陰で樹々から滴り落ちる水滴から解放されることになる。樹間からは右手に八飯から上がってくる尾根が見えるが、なだらかな尾根にはかなりの長さにわたって植林が続いている。
P627を過ぎると尾根は広々とした台地状となり、右手から上がってくる谷の源頭がなだらかな斜面に繊細な襞を刻む。冬の柔らかな日差しを浴びた樹々がが緩やかな起伏に美しいシルエットを描いていた。
台地を過ぎると急に尾根が細くなるが、早速にもブナの回廊が現れる。背後からブナ林への感嘆の声が聞こえてくる。このあたりからは尾根は複雑に蛇行するが、尾根にはブナ林が続く。尾根はなだらかで、点標八飯まで2kmほどの間に稼ぐ標高は100mにも満たない。この起伏の乏しい稜線が風力発電を建設するための林道を通すのに都合が良いのだろう。
点標八飯が近づくと急に青空が消え、鈍色の雲が広がるようになった。無機的な風況観測計が天気の陰鬱さを際立たせるようだ。
点標からはしばらくは広いブナの樹林の中に幅の広い林道が作られているようだ。尾根を南下した広々としたピークは西側に好展望が広がり、すぐ目の前には今庄365スキー場のゲレンデの広がる鉢伏山が広がる。このスキー場は数年前から営業を停止している。
左に視線を移すと西方ヶ岳と湖が目に入る。四方を山に囲まれているように見えたので湖に思われたが、実際にはそれが敦賀湾の一部であることに気がつくまで少し時間を要するのだった。ここは展望は良いのだがその敦賀湾から冷たい風が吹き付けるので、先に進むことにする。先ほどから続く林道は鞍部への下りの前で唐突に終了する。このあたりの樹林を切り開いた重機を再びヘリコプターで運ぶためにこの広地があるのかもしれない。
小さな鞍部を経てp738に登り返すとすっかり風がなくなる。ブナの樹林の中で各自、行動食でランチをとる。尾根を南下すると相変わらずなだらかな尾根にブナの純林が続く。やがて右手の樹間からは大きなスキー場が目に入る。余呉国際スキー場だ。こちらはスキー客で賑わっているようだ。風に乗って微かにゲレンデの音楽が聞こえてくる。
唐突にブナの林の中に電信柱が現れたので、何かと思えば、江越国境の電波塔に電気を運ぶための電信柱であった。お陰で江越国境にたどり着いたことを知る。すぐに大きな電波塔に到着する。
電波塔からはわずかばかりの間はブナの立ち並ぶ尾根となるが、まもなく送電線下の樹木の皆伐された好展望の雪稜に出る。国境尾根には数日前のものと思われるワカンのトレースの跡が微かに残っている。
いつしか再び空には雲の間に蒼空が広がるようになり、稜線の右手には穏やかな冬の光がに照らされてベルクスキー場跡が眩い光沢を放っている。スキー場には先ほど八飯で見たのと同様の風況観測計が見える。その彼方には野坂岳から三重獄へと続く野坂山地の山々が大きく広がっている。
尾根の北側には樫尾谷から登ってきた尾根となだらかな尾根の中央に聳える風況観測計が見える。あと数年もしないうちにこの周辺の尾根にずらりと立ち並ぶ風力発電機を目にすることになるのだろう。
送電線から離れて尾根を辿ると、その先にはもう一つの風況観測計が聳え立っている。昨年、上谷山への往復の際に通った時には八飯の風況観測計と同様に太陽発電のパネルが備え付けられていたように思うが、そのパネルはすっかり取り外されていた。ということは観測は終了したことを意味するのだろうか。
もう一つ、昨年との大きな違いにすぐに気がつくことになる。風況観測計から先は樹林だったのだが、稜線が幅広く切り払いされており、林道が延伸されたようだ。積雪のお陰で平坦に見えるが、明らかに1m以上は積もっている雪の下には荒々しく削り取られた山肌と伐採されたブナの遺骸が散乱しているのだろう。
音波山のピークに至ると広々とした谷の彼方に大黒山から妙理山へと続く稜線が見える。
左手には下谷山がなだらかな山容を広げている。東隣のピークca890mに向かって切り開かれた林道が一筋の白い線となって続いているのが見える。
下山はca890mから△690mの岩滝と呼ばれる点標を経て尾根を末端に向かう。下谷山に向かうブナの純林の尾根にも林道が伸びているのを確認して、尾根を北に向かう。下谷山にかけての迷宮のようなブナの樹林を彷徨する楽しみは最早、失われてしまったのだろう。
しかし、このca890mから北に伸びる樫尾谷の右岸尾根は見事なブナの回廊となり、再び江越国境のブナ林を辿る愉しさを堪能させてくれる。尾根のブナは細い若木が多いが時折、存在感のある大きな樹を目を惹く。
最初の小ピークca850mは地図では平坦地に描かれているが地図では表現されない複雑な地形が広がっている。やがて傾いた午後の日差しが樹林に差し込むと橙色を帯びた光がブナの樹幹を明るく輝かせるようになる。
どこまでも続くかのようのなブナ林もca700mで尾根が東側に曲がると唐突に植林の細尾根になる。尾根からは左手に大きく展望が広がり、広々とした樫尾谷と八飯に至るまでの登ってきた尾根を俯瞰することが出来る。
植林の尾根を北上すると唐突に樹林が切れて大きな反射板が現れる。右手には美濃俣丸から笹ヶ峰、金草岳と連なる越美国境、その先には部子山の展望が広がる。晴れていれば正面には白山を望むことも出来るのだろう。
尾根を横切る林道に降り立つと、ここから先にには植林の中に送電線巡視路と思われる広い道が続いている。尾根の上には送電線が走っており、ca450mに至るまで歩きやすい雪道が続く。最後の送電線鉄塔を過ぎると樫尾谷に向かって北に伸びる尾根を下降する。ca350mあたりまでは歩きやすい尾根が続いていたが、最後は急下降の細尾根となる。途中でNさんがスマホを失くされたようで、尾根を戻るが雪に埋もれてしまったのだろうか、残念ながら見つからずじまいであった。
問題は尾根末端の植林帯に入ってからだった。河岸段丘の緩斜面に入るのだが、間伐された樹が散乱しているお陰で随所で踏み抜きまくることになる。樫尾谷の左岸には行きに歩いた林道が見えているが、樫尾谷川を渡渉するのは容易ではない。小さな流れを渡って右岸の林道に合流する。地図で記されているよりも低いところに林道があるのが有難かった。林道を歩くと車を停めた除雪終了地点まではすぐだった。
美しいブナの回廊を堪能することが出来た山行であったが、下山後に今回歩いた点標八飯から東に伸びる稜線、そして下山で辿った稜線にも風力発電機の建設が予定されていることを知る。失われゆくブナ林に対する哀惜の念を禁じ得ないのだった。